アブさんの日本滞在記 その1
アブさんが初めて日本の地を踏んだのは1993年5月のことだった。もちろん日本語はひとこともわからず、日本という国についての予備知識だって皆無だったが、すでに来日していたスーダン人仲間をたよりに新しい生活に飛び込んだのだった。
アフリカからやってきたアブさんの1番の苦手は日本の冬である。初めて迎えた冬のある日、数人の友だちと同居していたアパートに1人でいたアブさん。初めてひとりで外出してみた。と言っても寒すぎて数十メートル先の角までがやっと。
ふと見ると飲み物の自動販売機がある。日本ではどこにでもあるが、スーダンでは見たことがなかった。身を縮ませながら珍しげに見ていると、通りがかりの警官が彼のところに近づいてきて何か声をかけたのだ。
を言ってるかわからないアブさん、これは不審尋問されてると思い身構えた。するとこの警官はポケットから小銭を出して缶コーヒーを買い、それをあぶさんに差し出したのだ。びっくりしたりほっとしたり、アブさんはその温かいコーヒーを両手で包みながら頭を下げた。初めて触れた日本人の優しさだった。そしてぬくもりだった。アルハムドリッラー。
つづく…
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