第7回目のお話 心筋生研ともふもふサンダル

 一年前、心臓カテーテル検査と心筋生研を生まれて初めて経験した。
 “ 心臓カテーテル検査とは、カテーテルと呼ばれる細い管を冠動脈の入り口まで通し、冠動脈内に造影剤を流し込みX線撮影をすることで、心筋生研とはカテーテル検査時に静脈から生研鉗子と呼ばれる小さな鉗子を用いて大きさ2.3ミリの僅かな心筋組織を採取する"


と書いてあって、主治医もいたって軽い調子で説明するものだから、さして大変な検査ではなさそうだと思わされるが、実際やってみたら恐ろしかったというお話をしたい。 

検査前日から入院したのだが、夕食後退屈しのぎにコンビニでも行こうかと病院の廊下をスタスタ歩いていた。すると、通りすがりの見知らぬ中年女性がニコニコしながら寄ってきて
「あらー、素敵な履き物ですねえ。どこで買われたんですか?」と言った。
私は少し戸惑いながら、
「これですか?娘が買ってくれたんでどこに売っているのかはちょっと…。」と応えた。
するとその女性は
「そんな素敵なサンダルを買ってお母様に持たせてくれる娘さんがいらっしゃるなんてお幸せですね〜。」
と告げて立ち去った。
そのサンダルというのがこの写真。どう見ても病院着の足元には似合わないし、ちょっとま
んがっぽいし、恥ずかしいなと思っていた。まあお世辞だろうが、その女性が私を少しだけ幸せにしてくれたのは間違いない。

 そして当日、検査台に寝かされ局所麻酔が打たれると検査開始。首の血管に針を刺し、管をぐいぐいと入れてゆく。痛みはないが、管が自分の血管の中を通ってゆくのがはっきりわかる。時折ぎゅーっと圧迫される感じがするとともに心拍数が跳ね上がる。すると検査途中でモニタールームの先生方が何か外部と連絡を取り合ったりして様子がおかしい。私のそばにいた看護師さんたちも消えた気配がして急に不安になった。首から管を入れられたまま私は一人残されてしまった。(という感じがした)

その時の恐怖は耐え難かった。恐らく数分間しか経過していなかったのだろうが、私には数時間に思えた。やがて看護師さんはもどってくると、「機械の調整に時間がかかってしまいもうしわけありませんでした〜。再開しまーす。」と告げた。
私は最後まで辛抱できるのだろうか?このまま心臓が止まってしまわないか?トイレにもいきたい気がしてきたとあれこれ考えていた。 なにがどうなってもいいから、どうか神様わたしのそばにずっといてください!私の血管の中からわたしを見守っていてください!私の不安を全て引き受けてください!そんなことをずっと祈っていた記憶がある。

X線撮影が終わると最後に生研。
「今から体が熱くなりますよー。」
と言われた途端に全身の血液が沸騰しそうなほどカーっと熱くなった。まさに私の心臓の一部がかじり取られた瞬間だった。しばらくすると看護師さんは
「もう少しで終わるけん、頑張ってくださいね。」
と励ましてくれた。頷くのが精一杯だった私。目を固く閉じたら涙が一滴こぼれ落ちた。あ〜、怖かったー。
全部終了して検査台に腰かけて足元を見たら、あのもふもふサンダルがきちんと揃えられて私を待っていた。なんだかおかしくなって私は少し笑った。

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