第15回目のお話 昭和下町物語 その2
アッサラームアライクム
今ではもう姿を消してしまったいくつかの商売のお話をしたい。
我が家の真正面には貸本屋があって、一日10円か20円で本や雑誌が借りられた。小学生の頃の私の愛読書は「サザエさん」だった。全68巻をこの店から借りて読破した。
貸本屋のおばさんは物腰のやわらかな親切な人で、私たち姉妹の好きな月刊誌が入荷するとピシッとビニールカバーをつけたてのものを真っ先に家に持って来てくれた。まだ誰も触れてないページをめくるときの幸せ感は忘れられない。
貸本屋の隣はレコード店だった。当時、デビューしたての歌手が新曲のキャンペーンのために町のレコード屋を回るというのがあった。店の前にのぼりを立ててタスキ掛けの歌手がサイン会みたいなことをやるのだ。
さして歌など興味のない人たちでもこの日はにわかファンになり集まってくる。何人か来た歌手、たいていはパッとせずに消えていった。が、たまたまテレビに出てるのを見て、「あ、この人来たよねー。」とか言って家族で盛り上がるのが面白かった。
家のすぐ裏に住んでいた「お産婆さん」。今で言う助産婦だが、個人経営でお産の時に出張してくれる。私も自宅でこのおばあさんに取り上げてもらったらしい。出産後も何かにつけて母はこの人に世話になったという。私の3歳の誕生日の写真にも彼女が家族の一員として写っていた。
午後になるとどこからかやってくるおでん屋の屋台。おじさんが鳴らすチリンチリンとともに漂ってくるおでんの匂いは幸せを運んでくれた。鍋を持参して買いに来る主婦たちのほかに、小銭を握りしめ集まってくる子供たち。屋台の周りにはあっという間に人の群れができる。私は、串に刺さった大きなちくわぶが大好きだった。
夕暮れの空の向こうに子供たちの声が吸い込まれていくような気がした。
つづく
つづく
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